東京地方裁判所 昭和45年(借チ)14号 決定
〔主文〕申立人が、相手方らに対し、本裁判確定の日から三カ月以内に金四九五、〇〇〇円を支払うことを条件に別紙目録記載の賃貸借の条件をつぎのとおり変更する。
1 目的 堅固な建物所有
2 期間 昭和二八年七月三一日から三〇年
3 賃料 右金員支払の翌月から一カ月金二、九二五円
4 特約 四階建以上の建物を建築する際は相手方らの承諾を要する。
〔理由〕一 本件申立の要旨
1 申立人は、昭和二八年七月三〇日、横矢孝一から別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)上の建物を買受けるとともに、本件土地を期間の定めなく賃借し、その後右横矢孝一の死亡にともない相手方らが賃貸人たる地位を承継した。
2 申立人は、現在、本件土地の上に、木造瓦葺二階建、居宅・店舗(床面積各31.80平方米)を所有しており、相手方らとの本件賃貸借契約の条件は、別紙目録記載のとおりである。
3 ところで、本地賃貸借は、事情の変更により、堅固な建物の所有目的とするのが相当であるに至つた。すなわち、本件賃借権設定当時、本件土地附近は木造建物が並んでいたが、準防火地域に指定され、現に鉄筋鉄骨コンクリート造の建物が争うように建設されている。更に、申立人は中古自動車の販売業を営んでいるが、前面道路の駐軍禁止と公害規制のため営業継続が困難となつているので、現建物を堅固な建物にして音楽教室等に利用したい。
4 そこで、申立人は、本件賃貸借の目的を堅固な建物所有に改めるべく、相手方と協議したが、協議が調わないので、借地条件を変更して堅固な建物所有を目的とする裁判を求める。
二 相手方の答弁の要旨
申立人が本件土地の賃借人であることは認めるが、その期間は設定の日から二年である。本件土地附近は、木造建物が多く事情の変更は認められないうえ、相手方は期間満了時には土地の明渡を求める意向であるので、本件申立は棄却さるべきである。
三 鑑定委員会の意見の要旨
本件賃貸借の目的を変更することは相当でない。すなわち、本件土地が接面する街路沿いには木造二階建建物が大部分であつで堅固な建物は数少い。本件土地附近が近い将来において、商業地域ないし防火地域へ指定されるとは予測しがたい。また、本件土地は、建ぺい率の規制上、建築技術上はともかく、経済的にみて、堅固な建物を建設するには狭隘にすぎ、良識と通常の使用能力をもつ人が採用するであろうと考えられる使用方法でない。
四 当裁判所の判断
1 本件で取調べた資料によれば前記一の1、2の事実が認められ、右事実によれば、申立人が、相手方らから、本件土地を別紙目録記載の約で賃借していることは明らかである。
2 借地法八条の二、一項の要件の存否について判断する。
(一) 前記資料によれば、本件賃貸借成立当時、附近一体木造建物が大部分で非堅固の建物所有の目的とする賃借権が通例であつたことのほか、つぎの事実を認めることができる。
(1) 本件土地は、新大橋方面から柳原方面に至る「新大橋通り」中都電菊川一丁目電停を約三〇米南方の地点で、南北に通ずる幅員約一一米の道路に面しており、附近一体は、準防火地域に指定されているほか、準工業地域、第三種容積地域に指定されている。
(2) 本件土地附近は、都心に近いわりにはやや発展が遅れ、いわゆる繁華街からはやや離れてはいるが、家屋が密集して存し、前面街路には、中小商店舗、事務所、住宅が混在し、前記都電通りは商店が並び商店街を形成している。
(3) 附近一体には、鑑定委員会の意見のとおり、なお木造モルタル塗りの建物が大部分で、堅固な建物は点在する程度にすぎないが、現に建築中ないし計画中の堅固な建物も存し、堅固化の傾向は、附近の土地価格の騰貴にともない、今後建物の改築に際し漸時増加することが予測される。
(二) 以上の事実が認められ、右事実によれば、本件土地附近の利用状況が現実に変化していることはいいがたいが、本件におけるごとく都心に近い地域では、家屋の密集化と土地価格の謄貴にともない建物が不燃化し高層化するのは不可欠の要請であるうえ、準防火地域においては、三階建以上は建物を耐火建築ないし簡易耐火建築物にしなければならず、今後建物の堅固化の傾向が一層進行するものと予想しうるのであり、これらの事実によれば、本件土地につき、前記附近の土地利用の変化に準じ、借地法八条の二、一項所定のその他の事情の変更により、現に賃借権を設定する際には、堅固な建物所有の目的とするのが相当となつたということができる。
鑑定委員会は、本件土地が堅固な建物所有を目的とするには、狭隘にすぎるというが、本件土地においても堅固な建物を建築することは可能であり、土地の狭さは、かえつて高層化を必要とする事由ともみられ、右事由をもつて目的の変更を許さないのは相当でない。他に、本件において右目的の変更を不当とすべき事由はない。そこで、本件申立は、後記の条件の下にこれを認容すべきである。
3 附随の処分につき検討する。
(期間)
本件賃貸借は期間の定めがなく、したがつて設定時から三〇年間であるが、この点当事者間に争いがあるうえ、目的変更による期間についての争いを避けるため附随の処分により期間を定めるのが相当であるが、相手方は期間満了時に更新を拒絶して土地の明渡を求める強い希望をもち、現段階で正当事由の存否を正確に判断しがたく、他方現在の賃借期間のままでも残期間は約一三年あり、改築の目的を一応達すると認められるので、期間を設定時から三〇年と定める。
(財産上の給付額)
借地条件中目的を堅固建物所有に変更するに際し、当事者の利害を調整するため申立人に財産上の給付を命すべく、その額は、堅固、非堅固の借地権価格の差が慣行上存する地域にあつては、これを標準として決すべきところ、従前の裁判例によれば、東京都内においては、右借地権の差額は更地価格の一〇%を基準とするのが通例であり、本件において、これを変更すべき特段の事由は認めがたい。そこで、申立人に命ずべき給付額を、本件資料により認められる本件土地の更地価格合計金四九五万円(3.3平方米当り金三三万円)の一〇%にあたる金四九五、〇〇〇円と定める。
(賃料)
本件賃貸借の賃料は、3.3平方米当り金一三〇円であるが、前記資料により認められる従前の賃料の推移および目的変更による利用効率の増加にともないこの際改訂すべく、従前の賃料を五割増額し、一カ月金二、九二五円(3.3平方米当り金一九五円)と定める。
(特約)
本件土地附近の建物の現況および申立人の目的変更後の改築計画ならびに隣地に居住する相手方の日照等の利害を考慮して主文中4の特約を付する。(筧康生)
目録
1 目的土地
東京都江東区深川森下町二丁目一〇番一一
宅地 127.50平方米(38.57坪)のうら、49.58平方米(15坪)
2 当事者
賃貸人 相手方ら
賃借人 申立人
3 目的 非堅固建物所有
4 成立 昭和一八年七月三〇日
5 期間 定めなし
6 現賃料 一か月金一、九五〇円(3.3平方米金一三〇円)